鉄鍋入門
~ なぜ"鉄鍋"なのか?~
フッ素樹脂コーティングされた安価な使い捨てフライパンから、鉄製のフライパンや鍋に買い換える方がここ数年、大幅に増えています。
(当店では鉄製のフライパンや鍋を総称して「鉄鍋」と呼びます。)
どんなに丁寧に使っていても、こびりつき防止効果がどんどん劣化して食材がくっつくようになり、結局は使い捨てる。フライパン本体も柄も全く傷んでいないのに、ただこびり付くようになるというだけで・・・・。
そんな使い捨て行動に嫌気がさし、さらにフッ素樹脂の体や環境に与える影響の大きさに気づいた人々が、鉄鍋に切り替えているのです。
鉄鍋は重さはそれなりにありますが、それ以外に「錆びる」 「くっつきやすい?」といったマイナスイメージをお持ちの方が多いのですが、適切な使用方法とメンテナンスさえ理解すれば、それは杞憂に終わります。
※ もちろんIH調理器にも使用できます。
そして実際に鉄鍋で調理して、その圧倒的な美味しさ、愉しさを含むメリットを知れば、小さなデメリットを補ってもなお有り余る素晴らしさが鉄鍋にあることを理解することでしょう。
ここでは、その鉄鍋の使い方、コツ、メンテナンス(お手入れ)方法等を含めた扱い方、そして何よりも鉄鍋を使うことにより手に入る何とも豊かな食生活、人生をご案内致します。
【なぜ鉄で焼くと美味しく出来るのか?】
わかりやすい例なので、世間で最も売れている(であろう)アルミ製の安価なフッ素樹脂コーティング済みのフライパンと、鉄フライパンを比べてみます。
アルミの特性
アルミという素材は「熱しやすく、冷めやすい」という特性があります。
つまり火を付けると、火の当たっている部分が瞬時に高温になり、火を消すと温度もすぐに下がるということです。
そのため、このアルミのフライパンで肉を焼いてみるとよくわかりますが、火の当たっている中央部分はすぐに焦げ目が付き、端の部分は焼き目がなかなかつかない。
そして焼き上げて切ってみると、焦げ目が付いている中央部分でも中が生焼けになっていることがよくあります。
鉄の特性
それに対して鉄という素材は、アルミの正反対「熱しづらく、冷めづらい」という特性があります。火を付けても瞬間的にフライパンが熱くならず、じわじわとゆっくり温まっていきます。
そして一度フライパンが熱くなると、火を消してもなかなか温度が下がりません。
こちらで同様にお肉を焼いてみると、底面はじっくりと全体に熱が蓄えられているので、中央部と端っこの部分の焼きムラがほとんど出ません。
つまり、高温の炎と食材の間に、薄くてすぐに熱くなる金属(アルミ)だと火のあたり(入り方)がキツく、表面ばかりが焦げてしまいますが、厚みがあって熱の伝わり方が穏やかな鉄であれば、表面ばかりが焦げるのではなく、優しくじっくりと、しかも均等に火を通すことが可能なのです。
そしてこの傾向は、同じ鉄製でも厚みが増せば増すほど大きくなります。
(特に分厚いLODGEスキレットは厚みがあるので重いですが、熱を蓄える力も大きく、とても優しく火が入ります。)
そして鉄鍋は、毎日の料理から自然と鉄分を摂取できるという、ウレシイおまけ付き。
※ 【ここ重要】
特に女性は、鉄のフライパンもなるべく薄くて軽いものを選びがちですが、それは鉄の中では「熱しやすく冷めやすい」部類にはいるので、焼きムラが出やすく、表面も焦げやすい傾向にあります。だから調理が難しいのです。
適度な厚みがあるものを選べば、失敗無く美味しく調理できます。
(※ 炒め鍋を除く。これは振りやすさと一気に高温で炒める必要があるので。)
【鉄鍋使いの最大のコツ「予熱をしっかり」】
鉄鍋を使いこなす上での最大のポイントが、食材を投入する前にしっかりと「予熱」をするということ。これに尽きます。
日頃、フッ素樹脂加工のフライパンや鍋をお使いの方は、どのタイミングで食材を入れてもくっつくことがないので、「予熱」ということを意識していない方が大半です。
なので、鉄を初めて使ってみて、予熱が全然足らない(まだ鍋が十分に熱くなっていない)状態で食材を入れると、くっついたり焦げついたりしてしまいます。
その失敗を繰り返すと「やはりフッ素樹脂加工フライパンじゃないととこびり付く。」という誤解が生まれてしまうのです。
※ 【ここ重要】
予熱(よねつ)と余熱(よねつ)。音は一緒ですが意味は全く異なります。
予熱は事前にしっかりと鍋を温めること。余熱は火を消しても鉄が熱をキープ(蓄熱)している状態を指します。「よねつ調理」と呼ばれているのは後者の余熱です。
鉄の場合は、先ほど説明の通り「熱しづらく、冷めづらい」ので、油を敷いて火を付けても、瞬間的に熱くなりません。
適量の油を敷き → 中火で熱し → 油を全体に均等に回し → うっすらと白い煙が上がるまで熱して下さい。(白い煙モウモウにしてはダメですよ!)
それさえ押さえておけば、食材がこびり付くこともなく、しかも表面がしっかりキレイな焼き目の付いた香り高い仕上がりになります。
【長年使って育て上げる鉄鍋】
買ったときがベスト(ピーク)で、使えば使うほどにくっつきだして使いづらくなってくるフッ素樹脂フライパン。寿命の差は多少ありますがいずれそのストレスで腹立たしくなり、1年前後で、使い捨てしている方も多いことでしょう。
それに対して鉄鍋は、買ったときが実はワースト(笑)。まだ赤ちゃん鉄鍋なので、錆びやすく表面もまだ油が馴染んでいません。
最初のうちは、使用後に必ずうっすらと錆び防止の為のオリーブオイルを全体に塗っておきます。これを繰り返して使いこんでくると、油が鍋全体に焼き付いて馴染んできます。
(鋳鉄の場合は、油が徐々に染みこんでいくイメージです。)
鉄板製や鍛造製のフライパンですと、油が焼きついてどんどん黒光りしてきます。
それが鉄鍋が育ってきた証しです。使いこむほどにどんどん育っていき、使いやすくなってくるのです。
ヌメ革の財布や鞄などが使いこんでアメ色に経年変化し、独特の風合いを持ってくるのと全く同じ感覚です。そんな「育てる悦び」を日々愉しむこともできます。
長年使いこんだ鉄鍋は、もう手放せません。愛着が出たフライパンは一生モノどころか、代々受け継がれて使われます。
(アメリカでは、LODGEスキレットなどは家で使っているモノを嫁入り道具として持たせるそうです。)
「60年使い続けたフライパン」の記事は こちら
日本でも、鉄瓶は同様に代々受け継いで使われてきましたよね。最近は若い方を中心に、鉄瓶も復権しています。
体にも環境にも、そして何より美味しくて代々使える鉄鍋をつかうのか。
フッ素樹脂加工のフライパンを延々と使い捨てし続けるのか。
これは単にフライパンだけの話ではなく、その人のライフスタイル、価値観、ひいては人生観さえも反映しているように思います。
【お手入れ方法】
鉄鍋によって、使い始めに慣らし(シーズニング)が必要なタイプ(Turk、打ち出し中華鍋等)と、お湯で洗っただけですぐに使えるタイプ(COOK & DINE HAYAMA オリジナルフライパン aom(アオム)、LODGE、Metal NEKO、リバーライト・極 等)があります。
鋳鉄、鉄板、鍛鉄など、同じ鉄でも様々な種類があります。(詳細別途)
いずれも洗い方の基本は「洗剤を使わず、お湯で亀の子たわしで洗う」です。
そして洗った後は、軽く火にかけて水分を飛ばしてから、うっすらとオリーブオイルを塗って下さい。これは錆び防止の為なので、うっすらつやが出る程度で可。ベトベトするようだと塗りすぎです。
また、ティッシュやキッチンペーパーで薄く塗ろうとするとカスがポロポロと出るので、古いTシャツを10cm四方に切ってストックして置きましょう。
コレにオリーブオイルを染みこませておけば、うっすらキレイに油をすり込ませることができます。
※ ニンニクやマグロのかまなど臭いのきつい料理の後は、スポンジに少量の洗剤を含ませて洗って構いません。ただ、せっかく使いこんで馴染んできた油を落とさないように、臭いを取り去る程度に軽くで。
【錆びてしまったら・・・・】
錆びてもいくらでも再生できますのでご心配なく。
私もダッチオーブンはキャンプで酔っ払って一晩屋外放置し、錆びさせた経験が度々あります(笑)。
■ 金たわし等で、サビをゴシゴシこすって落とします。
■ サビが取れたあとは、鉄の地金の色(銀色)が出てきます。
■ そこにオリーブオイルを塗り、ガスコンロでその部分を空焼きします。
煙がでても慌てず、その部分のつやがなくなるか否かのタイミングで火を止めます。
(IHの方は、カセットコンロをご使用下さい。)
最初のうちはその部分だけ色が薄いですが、使っているうちにどんどん黒くなりいずれわからなくなります。
【鉄鍋をつかうと、何が変わるのか。】
フッ素樹脂フライパンのように使い捨てしなくなるのは先述の通り。
鉄鍋を使うと何より、とにかくお料理が美味しくなります。
いつも作っている日常の何気ないお料理が、大きく変わります。
素材の美味しさを旨く引き出してくれるからです。
だから、今まではいろんな調味料やソースを駆使して味を調整し(ごまかし?)ていたものが、シンプルに塩だけになったり。そうやってどんどん味付けも調理法もシンプルになってきます。
だから、素材選びがどんどん楽しくなってきます。ただ塩で焼いただけで、AとBはこんなにも旨みが違うのか?!というのがよくわかるようになってきます。
「素材を吟味し、シンプルに鉄鍋で調理するだけで、こんなにも美味しくも豊かな食卓になるのか。」
それを実感していただける事でしょう。
料理に限らず、生き方そのものも無駄を廃した、飾らないシンプルな方向に変わっていく気がします。
ご一緒に鉄鍋クッキングを愉しみませんか。
ようこそ、鉄鍋ワールドへ。